はじめに
フィリップ・K・ディックの小説『ヴァリス』(1981年)を読み終えました。
本作はディック後期の代表作のひとつであり、批評家からは「思想的で挑戦的な作品」として高く評価されています。実際に読んでみても、神学・哲学を前面に押し出した内容で「難解」とされるのも納得です。
ただ、個人的にはエンタメ性が乏しく読みにくさが目立ち、評価は 60点。以下、ネタバレを含む感想をまとめます。
読書情報メモ
- ページ数:文庫で約400ページ前後
- 読書時間の目安:8〜10時間程度
- 読みやすさ:★★☆☆☆(専門用語や神学的テーマが多く、理解に背景知識が求められる)
- 個人的おすすめ度:★☆☆☆☆(ディックの思想に興味がある人にはおすすめだが、それ以外の人にはおすすめできない)
この作品について
『ヴァリス』は一応「小説」という体裁をとっていますが、実際には思想書に近い性格を持っています。
物語の随所に神学・宗教・哲学の専門用語が唐突に出てきます(例:グノーシス主義、魚の徴)。解説がほとんどないため、内容を完全に理解するためにはこれらについて知識が必要です。
そのため普通の小説を読む感覚で挑むと「何の話をしているのか」がわからなくなりがちです。
これから読む人には、最低限のあらすじを先に押さえてから挑むことをおすすめします。
小説のあらすじ
※ここからネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。
大量の専門用語に圧倒されますが、物語の筋自体はシンプルです。
幻視体験
主人公ホースラヴァー・ファットは「ピンク色の光」の幻視を体験し、それを宇宙的知性=ヴァリスからの啓示だと確信する。意味を求める探求
体験の真相を求めて、聖書や哲学、歴史を調べ続ける。果てしないメモ(後の『エクセゲシス』)を書きながら「神の啓示か妄想か」を問い続ける。仲間との旅
ファットと仲間はヴァリスの正体を追い、ロック歌手や宗教的グループと関わる。その中で「救世主となる子ども」の存在を知る。救世主の子どもとの出会い
特別な少女に出会い、彼女こそ人類を導く存在だと信じる。ファットは「真理に触れた」と感じる。突然の喪失
しかし少女は急死してしまう。救済の象徴を失い、ファットと仲間は深い絶望に沈む。残された問い
少女の死の意味、ヴァリスの正体、そして神の存在。答えは示されず、ファットは再び探求の迷宮に戻っていく。
良かった点
- 神学・宗教とSFを融合させた独自の世界観。
- 膨大な専門知識を総動員しつつ、作品としてまとめあげている点は素直にすごい。
- 「衒学的」と言えるほど知識を詰め込み、唯一無二のオリジナリティを放っている。
個人的にイマイチだった点
- ストーリー性は薄く、むしろ思想書に近い。
- 専門用語が多すぎて読みにくく、解説も不足している。
- 登場人物に魅力が乏しく、ディックの思想を代弁する記号のように見える。
まとめ
『ヴァリス』はディックの思想を理解したい人や、強烈に個性的な作品を求める人にはおすすめです。
一方で、エンタメとしての小説を期待する人には不向きでしょう。
批評的には「思想的挑戦作」として高く評価される一方、読者としては難解さが前面に出るため人を選ぶ作品です。ディックの思想に興味がある人にはおすすめですが、それ以外の人にはおすすめできません。特に、ディックを初めて読む人の入門書としてはハードルが高すぎるので、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』などの読みやすい作品から始める方が良いでしょう。