はじめに
ポン・ジュノ監督による最新作『ミッキー17』を鑑賞しました。主演はロバート・パティンソン。個人的にかなり期待していた作品でしたが、結論から言うと満足度は50点。ややネタバレを含みつつ、感想をまとめていきます。
ロバート・パティンソンの演技力が際立つ
最も印象に残ったのは、主演・ロバート・パティンソンの演技力です。彼は同一のクローン体を、性格や感情の違いを通じて見事に演じ分けており、表情や声色、仕草の細部にまで気を配っていました。その演技の幅広さと説得力には改めて感心させられます。
これまでも『TENET』や『グッド・タイム』といった作品で難解な役をこなしてきた彼ですが、本作でもその表現力は健在。パティンソンを目当てに観に行く価値は十分にあると言えるでしょう。
テンポの悪い脚本と粗いSF設定
一方で、本作の物語構成にはいくつかの難点がありました。特に気になったのは、回想シーンの多さとその長さです。上映時間は2時間17分とやや長めですが、その中でも説明的な回想が挿入されることで、物語がたびたび中断されてしまいます。ストーリーの流れが止まりがちで、展開に集中しづらく感じました。
また、SF的な設定も練り込みが不十分で、細部のリアリティに欠ける点が多く見受けられます。たとえば、主人公が「使い捨て人間(エクスペンダブル)」に志願する場面では、紙の申込書を手書きで提出するという描写があります。クローン生成や惑星間移動が可能な近未来社会であるにもかかわらず、アナログな手続きが残っているのは不自然に感じました。
さらに、主人公がその役割に選ばれる理由も「他に志願者がいなかったから」というだけで、特別な能力や適性が問われるわけではありません。死と再生を繰り返すという極限的な任務であるにもかかわらず、その選出過程があまりに適当な設定になっているのは説得力に欠けます。
ブラック・コメディとしての評価
本作はブラック・コメディとしての側面も持っており、死と再生をテーマにした風刺的な構成には一定の意義があります。ある種の皮肉やメッセージ性も見え隠れしており、そのジャンルとして観れば一定の評価はできるかもしれません。
ただし、ユーモアも完全に振り切っているわけではなく、深いメッセージ性があるとも言い難いため、ジャンル的な立ち位置があいまいで、結果として中途半端な印象を受けました。
まとめ
『ミッキー17』は、ロバート・パティンソンの演技を楽しむには十分な作品です。しかし、それ以外の要素──特にSFとしての完成度、物語構成、演出──については物足りなさが残ります。
ブラック・コメディとしては一定の魅力があるものの、SF作品として期待すると失望するかもしれません。興味深いアイデアがありながらも、それを十全に活かしきれていない印象です。
総じて、パティンソンのファンであれば鑑賞する価値はありますが、質の高いSF映画を求めている方にはあまりおすすめできない作品でした。
ちなみに、予告編と実際の内容にはギャップがあり、予告に惹かれて期待値が高まっている人ほど肩透かしを感じる可能性があります。鑑賞前にその点を踏まえておくとよいでしょう。