『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』感想:緻密な脚本が光る現代版クラシック・ミステリー

はじめに

ライアン・ジョンソン監督によるミステリー映画『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』を配信で視聴しました。本作は、古畑任三郎刑事コロンボに代表される“倒叙形式”を現代的に蘇らせた作品です。

公開当時から批評家や観客の評価が非常に高く、第92回アカデミー賞では脚本賞にノミネート。そのほかにも、全米映画批評家協会賞や放送映画批評家協会賞などで複数のノミネート・受賞を果たし、近年のミステリー映画としては異例の成功を収めました。

個人的な評価は95点。緊張感と知的な面白さを両立した、非常に完成度の高い一本だと感じました。

良かった点

脚本の完成度

本作の最大の魅力は、やはり脚本の巧妙さ。序盤で事件の顛末を一度提示し、緊張感を保って展開するストーリー構成は見事です。クラシックなミステリー好きにはたまらない脚本だと思います。

世界観の作り込み

物語の舞台となる大邸宅は、まるでアガサ・クリスティ作品に登場する屋敷そのもの。豪奢なインテリアや小道具が物語に奥行きを与え、屋敷自体が一つのキャラクターのように機能しています。作品世界に引き込む力が非常に強かったです。

無駄のない演出

派手なアクションや過剰な演出を排除し、人物の対話や視線、ちょっとした仕草で緊張感を生み出しています。そのおかげで、観客は最後まで集中して“謎解き”に没頭できます。ここが多くの批評家に評価された大きな理由の一つでしょう。

気になった点

ややご都合主義的な部分がある

全体的に完成度は非常に高いのですが、細かい部分では「少し都合が良すぎるのでは?」と感じる箇所もありました。物語を壊すほどのものではないので、エンタメ的な面白さやわかりやすさを優先した演出と捉えれば十分に許容できる範囲だと思いますが、リアリティを求める方だと気になるかもしれません。

主人公の存在感

探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)は独特の話し方やユーモアで印象に残る一方、序盤は他の登場人物に埋もれて存在感がやや薄く見えました。ただし物語が進むにつれ、彼の存在が大きく浮かび上がっていくので最終的には満足感がありました。

世間の評価と受賞歴

批評家からの評価は非常に高く、Rotten Tomatoesでは97%の支持率Metacriticでも82/100というスコアを獲得。観客からも「楽しい」「予想を裏切られる展開が良い」との声が多く、一般的な支持も厚い作品です。

受賞歴としては、アカデミー賞脚本賞ノミネートに加え、ゴールデングローブ賞では作品賞(ミュージカル・コメディ部門)と主演男優賞(ダニエル・クレイグ)にノミネート。数多くの映画賞で脚本やキャストが称賛され、2019年を代表するヒット作となりました。

まとめ

『ナイブズ・アウト』は、古典的な探偵ミステリーの美点と現代的なテンポ感を融合させた傑作でした。豪華キャストと緻密な脚本、そして舞台設定の魅力が相まって、観る者を最後まで飽きさせません。

ただし、派手なアクションやスリルを期待すると肩透かしを食らうかもしれません。むしろ人間関係の機微や心理戦、そして知的な謎解きに集中したい人にこそおすすめできる作品です。配信で手軽に楽しめるので、じっくりと推理の世界に浸りたい方にはぴったりの一本だと思います。